カルチャー

漁師の暮らしそのものが“アート”。琵琶湖から作品を生み出す『BIWAKOアーティストインレジデンス』

【滋賀をみんなの美術館に】

いつみても表情が違う湖面、
夕暮れ時には幻想的な色彩に染まる琵琶湖と、
水鳥の姿をシルエットに変える太陽の光…。

日本一の湖、琵琶湖は滋賀の真ん中にある
巨大なアート作品のようにも思えませんか?

そんな琵琶湖を身体ぜんぶで体感しているのが、
じつは“琵琶湖の漁師”の存在でした。

毎日の漁を通じて、
アートのように美しい琵琶湖を
身をもって感じていると話す漁師、
駒井健也さん呼びかけのもと、
漁師の日常を体験しながらアート作品を生み出すチャレンジ
『BIWAKOアーティストインレジデンス』が始まりました。

全国から集まった8名が、
漁師とともに船で琵琶湖へ。
1泊2日の体験を通じて、
琵琶湖からどんなアート作品が生まれるのでしょうか。

まだ夏の気配がのこる10月下旬、
滋賀県大津市、和邇漁港で行われた『BIWAKOアーティストインレジデンス』
の様子をご紹介します!

『レジデンス』の最初は「漁網」の修繕から!?

今年の『BIWAKOアーティストインレジデンス』に
参加したのは、東京、名古屋、京都、岡山、広島など、
全国各地から集まった8人。

ほぼ初対面、琵琶湖の漁は全員が初めてです。

そんな8人で、さっそく船で琵琶湖に出航!
と思ったら、この日はひどい強風。

穏やかなイメージの琵琶湖とは違う姿に
漁はできないけれど、「こんなに風が強いなんて」と
かえって作品の発想が膨らみます。

一旦、漁港に戻り、取り掛かったのは漁網の手入れ。
この漁網は、琵琶湖の伝統的な漁法のひとつ、
「刺し網漁」で使う網で、手作業でほどくのが仕事です。

ビワマスなどの琵琶湖固有の美味しい魚は、
この網の目に引っかかって、水揚げされます。

この網はえり漁の「つぼ」と呼ばれる
最後に魚が集まってくる部分の網です。
まるでお裁縫のように針と糸で、
開いてしまった穴をふさいでいきます。

次は、もっと大きな網が出てきました。
船に載せられた網を、機械で巻き上げて水洗い。

この巨大な網が、漁で使う中では
一番、小さな網というから驚くばかりです。

網の辺りには水しぶきがあがり、参加者もずぶ濡れ。
「こんなに大掛かりとは」と一同、衝撃です。
「体験」とはいえ、大変さ作業も実感してもらう、
『BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス』のこだわりです。

仕事を終えて、夕食と交流。
地元の農家も交えて、
琵琶湖や食、地域、暮らし…。
話は尽きないまま1日目が終わります。

2日目、いよいよ漁に


琵琶湖の朝は早い。
一同は早朝5時に、漁に出ます。
昨日の荒天から一転、天候はバッチリ。

船の上で迎えた日の出で、
水面がキラキラと光ります。
ここでしか見られない幻想的な世界が広がっています。

この、何本も突き出た、不思議な棒は「えり漁」の仕掛けです。

琵琶湖ので1000年以上続く、伝統的な漁法で、
障害物にぶつかるとそれに沿って泳ぐ魚の習性を利用し、
湖岸から沖に向かって矢印型に網を設置。
「つぼ」と呼ばれる行き止まりに誘導して捕まえます。

「えり」の管理も漁師の大事な仕事。

でも、実は『レジデンス』の時期は
「えり漁」の休漁期間。

「えり」の管理をしっかり行った後は、
他の漁法で魚を狙います。

こちらの筒は、狭い場所を好む
ウナギの習性を利用する「竹筒漁」。
さあ、お目当ては入っているでしょうか。

この日、なかなかウナギが入らず、
時間いっぱいの最後にやっと獲れ、
歓声が上がりました。

食や地域、多様な琵琶湖の感じ方

一度、漁から戻り、
湖岸で食事の準備です。
獲れたての魚と、地元の食材を合わせて
食から琵琶湖を見つめていきます。

ウナギは捌いて蒲焼きに。

ジビエや地場産の野菜も加えて、バーベキュー!
一番の人気はやっぱり蒲焼き。
獲れたて、捌きたて、
命をいただくことを実感します。

昼食後には、小さな水族館「びわこベース」に。
琵琶湖の多様な生態系を維持するための、
生き物の保護や調査などを行っている場所です。

琵琶湖には、さまざまなかかわり方があります。
漁をすること、食べること、生き物を保護すること。
それぞれが上手くかかわっているのが、
琵琶湖の特徴的なあり方です。

短い期間でも、琵琶湖の見せる多様な姿から、
その一端が見えてきます。

琵琶湖で感じたことを作品に

最後は、琵琶湖で感じたものを形に。
船の上や、漁港など、思い思いの場所で、
作品の絵コンテ(下絵)を描きます。

風や波、空や太陽、漁業の道具…。
それぞれが普段のフィールドで考えていることと
琵琶湖がつながっていく瞬間です。

絵コンテが完成したら、
参加者みんなで交流します。

同じ体験でも、生まれる作品はそれぞれ。
琵琶湖の多様性が映し出されているはずです。

“アーティストと漁師は似ている”

『レジデンス』を企画しているのは、
琵琶湖にほれ込んで、漁師に弟子入りし、
2020年に独立を果たした、
異色の経歴を持つ、駒井健也さん。

アーティストと共同の取り組みについて、
「アーティストそれぞれの琵琶湖を表現してもらい、
アーティスト自身はもちろん、
作品を通じて琵琶湖に関心を寄せてくれる人など、
琵琶湖に関係する人を増やしたいと思っています」
と熱く語ります。

「私も琵琶湖で感じたことを伝えていきたい、
と常々思っています。
ある分野に向き合って、自分なりの解釈で表現する、
アーティストの姿勢は漁師と共通するところがあると思います」。

駒井さんを夢中にさせる琵琶湖の魅力とは。

「琵琶湖は、それだけで完結しているわけではなく、
川や農業、人々の暮らしなどもつながっていて、
それら全体が琵琶湖だと言っていいと思います。

生き物と土地、環境と人がかかわりあっている、
そんな暮らしはここにしかないんですよね」。

駒井さんと、琵琶湖を全身で感じたアーティストが、
共同で作り上げた作品は、
2023年12月5日から10日まで、
大津市の滋賀県立美術館で展示されます。

見れば、きっとあなたなりの琵琶湖が
そこに広がるはずです。
ぜひご覧ください!

(写真提供:BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス 取材・文:川島圭)

『BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス』展示の概要

会期
2023年12月5日(火)~10日(日)
場所
滋賀県立美術館ラボ(滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1)
Instagram
https://instagram.com/fish123art

提供:滋賀県 「滋賀をみんなの美術館に」プロジェクト http://bino-shiga.net/

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